- 2025-5-24
- 個人年金・年金

老後の生活設計を考える上で、年金の受給開始時期は大きな選択のひとつです。多くの方が65歳からの受給を前提としていますが、実は年金は「繰り上げ」や「繰り下げ」といった制度により、受給開始のタイミングを選ぶことが可能です。なかでも「繰り下げ」は、年金の受け取りを遅らせることで受給額を増やす方法として注目されています。高齢化が進む現代において、長く働く選択肢が増える中、繰り下げ制度を上手に活用することで、より安定した老後資金の確保にもつながります。今回は、「年金の繰り下げ」制度の仕組みやメリット・注意点について詳しく解説いたします。
目次
- 年金の繰り下げとは
- 繰り下げによる増額率と具体的なシミュレーション
- 繰り下げ受給のメリット
- 注意すべきデメリットとリスク
- どんな人に向いている?判断のポイント
- まとめ
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年金の繰り下げとは
「年金の繰り下げ」とは、老齢年金(老齢基礎年金および老齢厚生年金)の受給開始年齢を65歳以降に遅らせる制度のことです。2022年4月の制度改正により、繰り下げの上限は70歳から75歳に引き上げられました。繰り下げることで、本来の支給額よりも増額された年金を生涯にわたって受け取ることができます。たとえば66歳で受給を開始すれば1年間の繰り下げとなり、増額された年金額が支給される仕組みです。
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繰り下げによる増額率と具体的なシミュレーション
繰り下げによる増額率は、1か月あたり0.7%と定められています。年単位で見ると、1年で8.4%、5年(70歳)で最大42%、10年(75歳)では最大84%の増額となります。たとえば65歳時点で年間120万円の年金を受け取れる方が、70歳まで繰り下げた場合、支給額は約170万円に増える計算です。ただしこの増額は生涯にわたって続くため、長生きすればするほど繰り下げの恩恵は大きくなります。
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繰り下げ受給のメリット
最大のメリットは、受給額が増えることにより、老後の生活資金に余裕が生まれる点です。医療費や介護費など、年齢とともに増える支出に備えるうえでも安定した収入の確保は重要です。また、働いて収入がある間は年金の必要性が低いため、あえて繰り下げることで現役時代とリタイア後の収入バランスを整えるという考え方もあります。さらに、年金受給額の増加は、結果的に長生きリスクへの保険とも言えます。
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注意すべきデメリットとリスク
繰り下げには「年金の受給を遅らせる」というリスクも伴います。たとえば70歳まで繰り下げたとしても、その直後に体調を崩して支出が増えたり、想定より寿命が短かったりすると、増額分を十分に享受できない可能性があります。また、繰り下げ期間中に万が一亡くなった場合、その間の年金は一切支給されません。さらに、公的年金控除の関係で課税対象額が増えるケースもあるため、税負担にも注意が必要です。
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どんな人に向いている?判断のポイント
繰り下げは、健康で働ける期間が長い方や、退職後も収入源が確保されている方に向いています。たとえば、65歳以降も自営業やパートなどで一定の収入があり、生活費に困らない方であれば、繰り下げによる年金の増額は老後の安定につながります。また、長寿家系であることも、繰り下げを検討する材料になります。一方で、持病がある、貯蓄が少ない、早期退職する予定があるといった方には不向きな場合もあるため、自身の健康状態や家計状況を踏まえた判断が大切です。
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まとめ
年金の繰り下げは、「いつから受給を始めるか」によって老後の生活設計を柔軟にコントロールできる制度です。増額率は非常に高く、長寿のリスクに備える手段としては効果的ですが、一方でその恩恵を享受できるには時間が必要であり、健康や経済状況と密接に関係しています。早くもらうか、遅くして増やすか——この選択が、今後の生活の安心感を大きく左右することになります。ご自身の将来像を明確に描きながら、適切な選択を行うことが重要です。