- 2025-8-26
- 個人年金・年金

年金を受け取る方の中には、「物価が上がっているのに年金額が増えない…」と感じる方も少なくありません。実は年金額は、物価や賃金の動きに応じて調整される一方で、制度財政の観点から制約も設けられており、実質的な価値が目減りするケースもあります。本記事では「物価スライド」と「マクロ経済スライド」の仕組みを段階的に解説し、年金の物価対応の仕組みを理解できるようにしています。
目次
- 年金額が物価に連動する仕組みとは
- 「物価スライド」の仕組みと役割
- 「マクロ経済スライド」とは何か
- 名目下限措置とキャリーオーバー制度とは
- 実際の改定事例:令和6年度の年金改定
- まとめ:物価に追いつかない年金の現実と対策
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年金額が物価に連動する仕組みとは
年金額は、毎年、前年の消費者物価指数(CPI)や名目賃金の変動に応じて改定されます。これは、インフレによって年金の実質価値が減らないように設計された仕組みであり、公的年金ならではの特徴です。適切に物価変動に対応することで、年金生活者の購買力を維持する仕組みになっています。
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「物価スライド」の仕組みと役割
「物価スライド」とは、前年の消費者物価指数の変動に合わせて、年金額を自動的に改定する制度です。翌年4月から実施され、年金の名目額が物価上昇に応じて増えるよう調整されています。
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「マクロ経済スライド」とは何か
一方で、年金制度の安定を図るため、2004年施行の「マクロ経済スライド」が導入されました。これは物価や賃金の上昇率から、スライド調整率(被保険者数の減少や平均余命の延びなどを反映した値)を差し引いて年金額を調整する仕組みです。
この結果、物価上昇があっても、必ずしも年金額に完全に反映されず、実質的な上昇は限定的になる場合があります。
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名目下限措置とキャリーオーバー制度とは
物価上昇率がスライド調整率以下の場合、年金額の改定率がマイナスになることを避けるために「名目下限措置」が採用され、支給額は前年と同額になります。
さらに、平成30年度から導入された「キャリーオーバー制度」により、名目下限措置で実施できなかった調整分を翌年度以降に繰り越して調整する仕組みも存在します。
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実際の改定事例:令和6年度の年金改定
令和6年度は、物価変動率3.2%、名目手取り賃金変動率3.1%、マクロ経済スライド調整率▲0.4%の計算結果から、年金改定率は「2.7%」となりました。
つまり、物価上昇分には届かない調整となったことから、実質的には手取り額の価値が減少している状態であるといえます。
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まとめ
年金額は物価に応じた調整が行われていますが、「物価スライド」と「マクロ経済スライド」の二つの仕組みによって、実質価値の維持は難しい状況です。インフレに追いつかない現実がある中で、生活設計をするには、年金額を名目でとらえるのではなく、実質的な受給額を見据えることが重要です。